OB通信2020夏_3 自転車旅今昔

自転車旅いまむかし
17期 張替

世の中にスマホ、コンビニはおろか、携帯電話もカード決済の習慣も無かった四十数年前から自転車旅をしてきた。
今から思えば不便なことも多かったが、その頃はほとんどの駅、バス停、お宮などで寝泊りのできる“寛容”の時代でもあった。
いまは大抵のアイテムが軽量コンパクト化し、しかも安価で簡単に手に入る時代になった。

しかし、その一方、”他人”は信用できない存在とされ、めったやたらな所では寝泊まりできなくなってしまった。
自転車旅にとってはどっちの時代がいいのか。即座に判断はできないが、とりあえず今と昔の自転車旅の違いについて感ずるままに書いてみる。話を進めるにあたって、”今“とは2019年、”昔”とは1970年代後半としたい。
小生の年齢に置き直せば、今=62歳、昔=19~21歳ということになる。また、旅は2週間程度のプライベートランを想定。

[項目] [今] [昔]
宿泊 キャンプ場、道の駅など 駅、バス停、お宮など
宿泊装備 テント一式、シュラフ他 シュラフのみ
食事 コンビニ調達が主 自炊(米、缶詰など)
金銭引出 コンビニでキャッシュカード 郵便局で通帳とハンコ
通信 iPhone(メール、電話) 公衆電話、はがき、手紙
写真 iPhone カメラ、レンズ、フィルム他
音楽 iPhone 小型テープレコーダー
地図 iPhoneでナビ 地図、地図帳
記録 iPhone 手帳、筆記用具

今と昔の違いを簡単に表すと上のようになるだろうか。以下順に補足説明をしてみたい。

【宿泊】昔の場合はほとんどの駅構内で泊まらせてくれた。名古屋駅のような都会の大きな駅でも
構内で泊まれたのだ。また、北海道では冬場に備えて、しっかりした作りのバス停が多く、
よく利用させてもらった。案外穴場だったのがお宮だ。涼しいし、駅などと違って静かだったので、
夏場の宿としては最適だった。今は深夜の駅構内には入れないし、駅の周りでの野宿は不審者扱いとなるだろう。

【宿泊装備】昔は屋根のあるところで寝泊りできたので宿泊装備はシュラフのみでOKだったが、
今はキャンプ場や道の駅での野営が主力になったので、テント装備一式は持っていかなければならない。幸い現在のテント装備は軽量コンパクトに出来ているので、扱いやすい。

【食事】今は野営地で食事する際もコンビニで調達してから行くので自炊することはない。したがって、自炊装備は持たないですむ。昔は大きな町のスーパーのようなところで米、即席ラーメン、缶詰、魚肉ソーセージなどを買いこんで、コッフェル、ストーブなどの炊飯道具で米を炊いて食べていた。思えば、あの頃は煮炊きなども駅構内でやらせてくれていたのだ。今となっては信じられませんナ。

【金銭引出】今はコンビニのセブン銀行のようなところでキャッシュカードで引出しているが、昔はコンビニなどなく、銀行も田舎には無かったので、全国津々浦々にある郵便局で通帳とハンコで引出していた。真夏の郵便局は冷房が効いていて非常に涼しく、冷水器の設備もあったので砂漠のオアシス的存在だったのだ。

【通信】小生はiPhoneを使っているが、LINEメールが主な通信手段で、ごくたまに電話も使う
(最近ではビデオ通話機能を利用してリモート呑み会もやった)。昔の通信手段は旅に出てしまえば、
公衆電話を利用するか、はがきや手紙を郵便で送るしかなかった。それでも何の問題もなく旅は出来た。

【写真】デジカメを持って行くこともあるが、今はiPhoneひとつあれば十分である。フィルムカメラ時代は家に戻って、カメラ屋に現像してもらって初めて自分の撮った写真が解る、という仕組みだったので、結局、金が勿体無いので現像に回さなかったフィルムも結構あった。何だったんだろう。今は撮る側から画像を見ることができ、それを家族や友人に即座に飛ばすこともできる。動画も同様だ。しかも、クオリティがいい。昔を考えたらとんでも無い時代になったもんだ。

【音楽】昔は自転車旅の途中で音楽を聴こうなどとはあまり思わなかったのだが、何度か友人に借りた小ぶりのテープレコーダーを持って行ったことがある。まだ、ウォークマンさえ発売されていなかった時代である。
(ウォークマンは1979年7月1日発売開始)。聴いた曲は自分でカセットテープに録音した「山口百恵」や人から借りた「中島みゆき」(友人から北海道行くならこれを持っていけと渡された覚えがある)などか。
今はiPhoneで自由自在に音楽を聴ける。Amazon musicやSpotifyなどの音楽配信サービスを利用することもできるし、もちろん、自分の好きなCDをiPhoneにダウンロードして聴くこともできる。

【地図】昔は大きめの地図帳(全国版)と国土地理院の20の1図などを持ってあるいた。
今はiPhoneからつないだGoogleMapを利用している。ナビ機能があるので便利だ(クルマのナビもこれを使っている)。万が一に備えてその地域の地図帳は持ち歩いている。

【記録】昔はいわゆる「旅日記」をつけるための手帳と筆記用具を持ち歩いていた。今はiPhoneがあれば事足りる。
こうしてみると、今と昔の装備比較の中の「iPhone(スマホ)」の存在は大きい。iPhoneひとつで昔の装備のフロントバック一個分の荷物を減らすことができるのだ。昔のフロントバックの中身は(小生の場合だが)、一眼レフカメラ、交換レンズ、未使用フィルム、使用済フィルム、小型テープレコーダー、カセットテープ、地図、地図帳、旅日記帳、筆記用具などだったが、iPhoneひとつあれば、これらはすべて補うことができる。

そして、iPhone本来の通信機能だが、こちらの方も申し分ない。いつでもどこでも、メールや電話ができ、ニュース、天気予報のチェックも宿泊手配もできてしまう。40年前にこんな便利なアイテムが登場すると誰が想像できたろう。同世代だったスティーブ・ジョブスの頭の中にはあったのかもしれないが・・・
短所として充電の問題があるが、モバイルバッテリーを携帯しておけば何とかなる。最近ではソーラー充電できるものもあるので電源のないところを長期間走ったとしても大丈夫だろう。

コンビニの存在も大きい。24時間営業でトイレ付き。食べ物、飲み物、日焼け止め、バンドエイド、薬などなど、自転車旅に必要なものはもちろん、あらゆる商品が過不足無く並んでいる。銀行機能もあり、荷物の発送もできる。
そして、全国津々浦々に店舗がある。今の時代に自転車旅をしていると「コンビニというのは自転車旅のためにあるのではないか」と思ってしまうぐらいである。

さて、どっちの時代がいいかだが、不便不安の多い旅は旅人本人の能力がないとやっていけない。
体力はもちろん、その不便不安を乗り越える精神力や遣り繰り算段のスキルも必要になる。

あんまり、便利になってしまうと極端に言えば、何も考えなくても旅は出来てしまう気がする。
iPhoneやコンビニを最大限に利用することは“日常”を引きずって、旅をしているのではないか。
“非日常”こそが旅ではなかったか。旅先での不便、不安があるからこそ旅は面白いのではなかったか。
と思うと、昔の旅の方がよかったということになるのだが、単なるノスタルジーかもしれん。

まだ、前途有望の若い人は昔のような旅、例えば、コンビニもなくiPhoneも使えない海外の発展途上国を自転車で旅をして己を鍛える。小生のような先の見えた御隠居はそんな無理をせず、iPhoneやコンビニを利用して楽な旅をする。多少面白くなくとも、自転車で旅ができるだけで十分じゃい、と開き直る。この辺りが落としどころか。

あれこれ書いてきましたが、まずは自転車に乗って走ることから始めないといけませんね。
もうちょっと涼しくなって、新型コロナが落ち着いたら、どこかに走りに行こうと思っています。

2020年8月猛暑日 自宅にて

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